こんにちは。水口結貴です。
今日は、ロシア出身の画家、シャガールの「イカロスの墜落」を紹介します。

●ギリシャ神話の一場面を描いた

「イカルスの墜落」は1975年、マルク・シャガールの最晩年に描かれました。
描かれているのは、ギリシア神話の一場面です。「イカロスの墜落」は有名なエピソードで非常に人気があり、多くの芸術家が絵画や映画、詩や文学などで扱ってきました。


chagalljpg(個人ブログコピペ)20161101




※画像は「バーソは自由に」より。

●ギリシャ神話の「イカロスの墜落」とは

イカロスの父親は、大工のダイダロス。母のナウクラテーはクレタ島のミノス王の奴隷でした。

ダイダロスとイカロスは、ミノス王の不興を買って、迷宮(※)に幽閉されてしまいます。親子は「鳥の羽根を蝋で固めて」翼をつくり、身につけて空を飛んで脱出します。
その時、父親(ダイダロス)は「息子よ、太陽に近づいてはならない。熱くなると蝋が溶けてしまうから」 と注意しました。
しかし、イカロスは父親の注意を忘れて、太陽に向かって高く飛びすぎてしまいます。蝋で作った翼は太陽の熱で溶けてしまい「墜落死」してしまいました。
イカロスが落下した海は、彼の名にちなんで「イカリア海」(エーゲ海)と名づけられました。

※塔という説もある


●シャガールの故郷が描かれている

シャガールは独自の方法でイカロスの物語を解釈しました。そして、自分自身の感触、メッセージ等を加えて表現したようです。
神話ではイカロスはエーゲ海に墜落しますが、本作では画面下に「赤い川」が描かれ墜落場面を予感させています。
画面の下方にはシャガールの故郷であるロシア(ヴィテブスクのユダヤ人地区)の風景が描かれています。
これは、「戦争で他国へ亡命を余儀なくされた人生だったが、最晩年に故郷の大地に落ちていく」というメッセージを伝えている、という説があるようです。

●エピソードから「勇気一つを友にして」という曲も作られている

イカロスの伝説をもとに、片岡輝氏が作詞・越部信義氏が作曲した「勇気一つを友にして」という曲が作られています。「昔ギリシャのイカロスは」から始まる歌詞で、学校の教科書にも載っているようですから、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

私は、最初この絵を見たとき「墜落(=死)」というこの上ない「凄惨な場面」を描いているのに、その「色彩の豊かさ」に驚いたのでした。
また「墜落(落ちる)」瞬間のイカロスの心情を想像して、強烈な印象を受けました。
イカロス(若者)が感じた無念さや、それまで持っていた希望、困難な旅に出た勇気などを想像しました。
そして、まるで「自分の友人が亡くなったような」気持ちになったのでした。