こんにちは。
今回はブリューゲルの「叛逆天使の墜落」を紹介します。
1562年(ベルギー王立美術館)※画像はwikipediaより転載
「天使」は、キリスト教では「神のみ使い」とされています。神が様々な命令を出す。天使はその伝令役であり実行役です。「天の使い」だから「天使」なのです。
この絵は「天使が天上界から追放された」ことを描いています。
「天使の追放」については、聖書の「黙示録」で次のように書かれています。
「さて、天に戦いが起こって、ミカエルと彼の使いたちは、竜と戦った。それで竜とその使いたちは応戦したが、勝つことができず、天にはもはや彼らのいる場所がなくなった。こうして、この巨大な竜、すなわち悪魔とか、サタンとか呼ばれて、全世界を惑わす、あの蛇は投げ落とされた。彼は地上に落とされ、彼の使いどもも彼とともに投げ落とされた」(黙示録12:7-9)
「天使」や「悪魔」、そして「神」「地獄」などのテーマは、ブリューゲルが生きていた当時、圧倒的に人々の生活に影響を与え、支配していました。
当時は、宗教対立があり、それが原因で宗教戦争が止むことなく続いていました。いわゆる「魔女狩り」も続いていました。
人々は猜疑心の塊となり、他人を「悪魔」、「魔女」とののしって、殺し合いました。
加えて、ペストなどの疫病が流行し、多くの人々が死にました。この時代「死」が世界を支配していたのです。
ブリューゲルは、こうした当時の「不安」や「恐怖」を自作で表現しました。
本作では、反逆天使が「半人半獣」で描かれていたり、「悪」と「動物性」のイメージを重ね合わせる手法が取られています。
これは、ルネサンス期のネーデルラントの画家、ヒエロニムス・ボス(1450年頃-1516年)の表現を「模倣(真似)」したもの、という説もあるようです。
ところで、あなたは「フィリパ・ピアス」という作家をご存じでしょうか。
ピアスはイギリスの児童文学作家です。
彼女の代表作であり、カーネギー賞を受賞した作品が「トムは真夜中の庭で」(Tom's Midnight Garden )です。
詳細ストーリー等は他に譲りますが、この作品は「時」が重要なテーマになっています。
作品で大きな存在感を示すものが「古時計」です。
古時計には「黙示録 第十章、一から六まで」の文字が刻まれていました。
主人公たちは聖書を探し、その部分を見つけ出します。
それは、「わたしは、もうひとりの強い天使が、雲につつまれて天からおりてくるのを見た」から始まり、「もう時間がない」というセリフで終わります。
「読み終わったとき、トムの頭の中には、雲と虹と火と雷と-それらのものをみんないっしょにしたおごそかなものがうずまいて、くらくらした」(「トムは真夜中の庭で」 フィリパ・ピアス作 高杉一郎訳 より)
私はこの場面を読んだとき、なぜかとっさにブリューゲルの「叛逆天使の墜落」をイメージしたのでした。
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